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■ビルやマンションの老朽化で生じる問題とは?法的問題と対策を解説

2024.06.24

ビルやマンションの耐用年数は、鉄筋コンクリート造で50年(住居用47年)、重量鉄骨造で38年(住居用34年)とされています。しかし、耐用年数は、あくまでも減価償却のために税法上定められた年数ですので、耐用年数が経過したからといって直ちにビルやマンションの建て替えが必要になるわけではありません。しかし、適切な老朽化対策が講じられていないビルやマンションでは、建物の寿命も短くなりますので、年数の経過とともにさまざまな法的問題が生じます。ビルやマンションでは多数の人が居住や利用をしていますので、法的問題が生じると被害が予想外に広がり、大きな損害が生じることもありますので注意が必要です。

本コラムでは、ビルやマンションの老朽化で生じる法的問題とその対策について、わかりやすく解説します。

【執筆者】

1、ビルやマンションの老朽化で生じる法的問題

ビルやマンションの老朽化で生じる主な法的問題としては、以下のものが挙げられます。

(1)設備や配管などの経年劣化

ビルやマンションの老朽化は、建物内の設備や配管などの経年劣化を引き起こします。特に配管は、ビルやマンションの利用者や居住者が普段目に見えない部分ですので、知らないうちに経年劣化が進んでいるということもあります。

老朽化により配管などに損傷が生じると漏水被害が発生し、ビルやマンションの利用者や居住者に重大な被害を及ぼすおそれがあります。

なお、マンションでの漏水被害の法的問題については、2章で詳しく説明します。

(2)耐震強度不足による倒壊の危険

ビルやマンションの老朽化に関しては、耐震強度にも注意が必要です。

1981年5月31日まで適用されていた建築基準法の旧耐震基準では、震度5強程度まで耐えられる建物が基準となっていましたが、1981年6月1日以降に適用される新耐震基準では、震度7程度まで耐えられる建物が基準となっています。このようにビルやマンションが建てられた時期によって耐震基準が異なっていますので、老朽化の進んだ旧耐震基準の建物は、大地震による倒壊のリスクが高くなっています。

(3)高額な修繕費用の負担

ビルやマンションが老朽化してくるとさまざまな箇所に不具合が生じてきますので、定期的なメンテナンスや修繕が必須となります。特に、マンションの大規模修繕が必要になってくると、修繕積立金の不足によるトラブル、居住者や業者とのトラブルなどのトラブルが発生するケースも少なくありません。

ビルやマンションのオーナーにとっては、修繕コストの増加による収益率の低下も大きな問題といえるでしょう。

(4)老朽化による空室率の上昇

ビルやマンションが老朽化してくると空室率が上昇し、収益性が低下するという問題点も生じます。老朽化が進行した建物では、設備の古さや耐震性の問題などから入居者から敬遠されてしまい成約にまで至らないケースが多く、既存の入居者も不満を抱き退去してしまうケースがあります。

空室状態が長く続けば、予定していた家賃収入が得られなくなりますので、早期に適切な対策を講じる必要があります。

(5)建替えに伴う立ち退き問題

老朽化に伴いビルやマンションを建て替えることになった場合、既存の入居者と立ち退き交渉を行わなければなりません。一般的に老朽化による建て替えという事情は、立ち退きを求める正当な事由となりますが、任意に立ち退きに応じてくれない入居者がいる場合には、裁判などの法的手続きにまで発展することもあります。

また、立ち退きにあたって支払う立退料の支払いもオーナーにとっては大きな負担となります。

2、マンションの漏水は誰の責任?

マンションの老朽化でよくあるのが漏水によるトラブルです。漏水事故が発生した場合には、誰が責任を負うことになるのでしょうか。

(1)専有部分での漏水事故の場合

マンションには、個々の住戸内部の専有部分とエレベーター、階段、廊下などの共用部分の2つに分けられます。

マンションの専有部分で漏水事故が発生した場合には、専有部分の区分所有者または賃借人が漏水事故の責任を負うことになります。

たとえば、専有部分の居住者が風呂の水を溢れされて漏水事故を発生させた場合には、居住者の過失による漏水事故といえますので、専有部分の居住者は、不法行為(民法709条)に基づき賠償義務を負います。

また、専有部分の配管などの老朽化により漏水が発生した場合には、専有部分の区分所有者または賃借人は、土地工作物責任(民法717条1項)に基づく賠償義務を負います。土地工作物責任とは、一次的には占有者が責任を負い、占有者が損害発生を防止するために必要な注意をしたときは所有者が責任を負う制度です。マンションの賃貸借では、賃借人は漏水した配管などを管理・補修する義務はありませんので、通常の使用により漏水が発生した場合には、区分所有者が責任を負わなければなりません。

(2)共用部分での漏水事故の場合

マンションの共用部分で漏水事故が発生した場合には、共用部分の管理責任を負担している管理組合または区分所有者全員が責任を負うことになります。

なお、漏水事故の発生個所がマンションの専有部分であるか共用部分であるかを特定できない場合には、区分所有法9条により、共用部分に瑕疵があったものと推定され、管理組合または区分所有者全員が賠償義務を負うことになります。

(3)マンションの漏水事故による賠償の範囲

マンションの漏水事故による賠償の範囲は、漏水事故と相当因果関係のある損害に限られます。相当因果関係の立証責任は、被害者側にありますので、漏水事故との関係性が不明な損害を請求された場合には、事故との関係性をしっかりと立証してもらうようにしましょう。

また、漏水事故により精神的苦痛を被ったとして、被害者から慰謝料を請求されることがあります。しかし、漏水事故により生じた物損の補填がなされれば、精神的苦痛もなくなると考えられていますので、漏水による物損に加えて慰謝料を請求することまでは認められません。

このように、マンションの漏水事故が発生した場合には、責任の所在や損害賠償の範囲が複雑になりますので、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

3、ビルやマンションの老朽化に対する対策

ビルやマンションが老朽化するとさまざまな問題が発生しますので、そのような問題が生じる前に早めに対策をしていくことが重要です。以下では、ビルやマンションの主な老朽化対策を説明します。

(1)建替え

ビルやマンションの老朽化の抜本的な対策となるのが「建替え」です。老朽化したビルやマンションを取り壊して、新たに建物を建てることになりますので、老朽化問題からは完全に開放されるでしょう。耐震基準を現行法のものとし、最新の設備を導入することで、これまで低下していた収益性も大きく改善されるはずです。

しかし、ビルやマンションの解体・新築工事には多額の費用がかかります。また、工事期間中は収益もなくなりますので、資金に余裕がなければとることができない方法といえます。

(2)リノベーション

リノベーションとは、既存の建物に大規模な工事や修繕を行うことで、住宅性能や付加価値を高めることをいいます。ビルやマンションの建替えに比べて、工期が短く、費用負担も少ないことがメリットといえます。

しかし、リノベーションには建物の構造上の制約がありますので、希望通りの間取りや設備を実現できないケースもあります。

(3)売却

ビルやマンションの老朽化対策のための資金を準備できないときは、売却を検討することも一つの方法です。老朽化したビルやマンションを売却できれば、建物の管理の負担から解放され、まとまった資金を得ることができるというメリットがあります。

ただし、老朽化した状態のビルやマンションでは、なかなか買い手が見つからなかったり、希望価格で売却できない可能性もあります。

4、ビルやマンションの老朽化に伴う法的問題は弁護士に相談を

ビルやマンションの老朽化に伴う法的問題でお困りの方は、弁護士に相談することをおすすめします。

(1)権利関係が複雑であるため専門家のアドバイスが不可欠

ビルやマンションは、多数の人が居住や利用を予定しているため、一般的な土地や建物の不動産問題に比べて権利関係が複雑です。特にマンションでは、多数の区分所有者の存在や専有部分・共用部分の存在などがあるため、さらに複雑な権利関係になっています。

このような複雑な権利関係を有するビルやマンションの法的トラブルを解決するためには、専門家である弁護士のアドバイスやサポートが必要になります。問題が深刻化する前に、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

(2)老朽化に伴う事故が発生したときの対応を任せられる

ビルやマンションの老朽化が進むと、設備や配管の経年劣化が原因で漏水事故などのトラブルが生じることがあります。多数の利用者や居住者のいるビルやマンションでの漏水事故は、被害が拡大し、高額な賠償金を請求される可能性もありますので、個人で対応するのではなく、専門家である弁護士に対応を依頼すべきです。

弁護士に依頼をすれば老朽化に伴う事故対応をすべて弁護士に任せることができますので、負担を大幅に軽減することができます。また、被害者から請求された損害についても、法的に負担すべきものであるかを精査することで、損害額を減額できる可能性もあります。

5、まとめ

ビルやマンションの老朽化による法的問題が生じたときは、専門家である弁護士のアドバイスやサポートが必要になります。法的問題を放置していると、被害が拡大し、深刻な問題に発展するリスクもありますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

ビルやマンションの老朽化でお困りの方は、弁護士法人日栄法律事務所までお気軽にご相談ください。