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養育費の法改正、養育費をきちんと払ってもらえるようになる?【離婚・養育費問題】 

2025.01.22

離婚したら養育費を払ってもらえるはずだったのに実際にはもらえていない・・・・また、一応支払われているもののとても子を養育できる額ではない・・・・そのような悩みを抱えている方は少なくありません。 

日本では養育費の未払いが深刻な社会問題です。民法改正(2026年5月から施行)で状況は変わるのでしょうか? 

この記事では、養育費をめぐる現状と課題、そもそも養育費とはどのようなものでどのように決定されるのか、そして法改正のポイントを解説します。 

1 養育費の現状と課題 

養育費は親の子に対する扶養義務の表れとして、子と生活を共にしない親から、子と同居し監護している親に支払われるものです。しかし、子どもにとって当然の権利であり生活を維持する重要な手段であるにもかかわらず、日本では未払いが蔓延しています。離婚後、女性がひとりで子どもを育てるケースが多く、養育費の未払いは彼女たちの生活を圧迫し、貧困の連鎖を生み出す大きな要因となっています。 

厚生労働省の調査では協議離婚において養育費の取り決めがある場合が母子世帯で46.7%であるうえ、離婚後に養育費が継続して支払われている割合は57.3%、そもそも養育費の取り決めをしていない世帯を含めると28.1%にすぎません。 

また、養育費が支払われている場合であっても、必ずしも適正な額が支払われているとは限りません。 

このように養育費には重要な課題が多くあります。そこで離婚を検討している方は、養育費の仕組みについて十分に理解し、場合によっては弁護士への相談や必要な法律上の制度や手続を利用して、適切な養育費を受け取れるようにすることが極めて大切です。 

2 養育費の額の決定方法 

  1.  会社員等の総収入についての考え方 

まず、会社員や公務員の養育費の額の決定方法について解説します。離婚の際に離婚協議で夫側から一方的に養育費を設定されてしまい、実際に支払われるべき額よりも少ない額しか支払われていないというケースがしばしばあります。 

養育費は、父母双方の収入を基に、養育費算定表(養育費算定表 | 裁判所)により決定する方法が簡易的です。なお、婚姻費用(離婚前に別居等をした場合に一方の配偶者から他方の配偶者へ支払われる金員)も同様の方法により算出が可能です。 

養育費(婚姻費用)の額を決定するためには、父母両方の総収入を知る必要があります。 

給与取得者の総収入は、基本的には源泉徴収票によります。そのほか、市町村発行の所得証明書、市民税等の徴収税額の決定通知書によることもあります。 

複数の収入源がある場合には、市町村発行の所得証明書、税額決定通知書又は課税台帳記載事項証明書等で総収入を把握します。また、月々の給与支給明細書が提出される場合もあります。 

残業代については、養育費決定に際して、養育費を支払う側から、減少するとの主張がされることがあります。しかし、何らかの資料等によって確実な減少が見込まれると認定できない以上、過去の実績程度の収入が今後もあるものと考えるのが一般的です。他の手当についても同様に考えられます。 

ある裁判(東京高決平成21年9月28日)では、養育費を支払う側が、超過勤務手当がなくなり、賞与が減額したので総収入の認定にあたってそのことを考慮すべきであると裁判で主張しました。 

裁判所は、超過勤務手当が支給対象外となったこと及び賞与が減少したことは認められるが、ベース給月額が増加していること及び課長職に昇格していることからすれば、(養育費を支払う側の)年収が減少するかどうか、減少するとしていくら減少するかは予測が困難であり、本年分の年収を推計することができないから、婚姻費用分担額は前年分の年収に基づいて算定するのが相当であるとして、超過勤務手当及び賞与減額の事実を総収入の決定に際し反映させることを認めませんでした。 

また、ある裁判(東京高決平成26年6月3日)では、海外に勤務する夫(養育費を支払う側)に対し、妻が婚姻費用分担請求の申立を行いましたが、第一審の裁判所は、海外駐在給与について、海外勤務終了までの数年間の加給にすぎないから婚姻費用算定のための基礎収入には加えないとしました。しかし、第二審の裁判所は、(夫が取得する)海外駐在給与は、年間約566万円の収入の増加になり、海外赴任中は支給されるものであるところ、その赴任期間は4年~5年程度が予定されて(現在すでに3年半が経過している)いるのであるから、この海外駐在給与は、その額及び支給期間に照らすと、単なる一時的な所得に留まるものではないと回するのが相当であるとし、また、海外赴任が終了すれば、その支給もなくなることが想定されるから、その際には婚姻費用の減額も検討する余地が生じることになるというべきであるが、現時点ではなお相当の機会にわたりその支給が予定されている以上、婚姻費用分担金の算定に当たっては相手方の収入にこの海外駐在給与を加算するのが相当であるとし、海外駐在給与を総収入に反映させることを認めました。 

  1.  取締役の報酬についての考え方 

取締役の報酬についても源泉徴収がされます。しかし、同族会社の取締役の場合、その収入額をその意思で変更することができる立場にあることが多く、その報酬額は、税金対策など様々な事情の影響を受けやすいというのが実情です。そこで、このような取締役については、適切な婚姻費用や養育費の算定基礎となる収入推計にあたって、源泉徴収票では不十分と考えられる事情がある場合には、資料として、確定申告書等を提出させ、会社の営業内容も検討すべき場合があります。 

 ある裁判(大阪高決平成19年3月30日)では、会社の代表取締役であった夫(婚姻費用を支払う側)が、その役員報酬が減額になったことを主張しましたが、裁判所は、(夫は)会社の過半数の株式を有し、自らの報酬額を決定できる立場にあったとし、さらに、2度に渡る報酬減額については、(妻が)婚姻費用の支払を求める調停の第1回期日の前後と、調停が不成立となり審判に移行した直後に行われていることに照らすと、婚姻費用の額を低額に抑えるために行われたものと推認できるとし、減額前の役員報酬を婚姻費用決定の基礎として算定すべきであるとしました。 

  1.  自営業者の収入の考え方 

 自営業者の総収入の認定は確定申告書の課税所得を基にします。しかし、課税される所得金額は税法上様々な控除がされており、その控除の中には現実には支出されていない費用が含まれているためこれらを控除した金額をそのまま養育費や婚姻費用の算定のための総収入とすることは公平を欠く場合があります。 

 そこで、確定申告において所得から控除される金額のうち、現実には支出されていない費用、例えば「雑損控除」、「不要控除」等は課税される所得金額に加算されるべきです。また、所得金額算出のために控除された必要経費のうち婚姻費用(養育費)算出の観点から妥当でないものや、税額を抑えるために経費が水増しされている場合もあることから、各必要経費について詳細に検討すべき場合があります。 

また、事業所得について変動が激しい場合があります。その場合、数年の平均値をとるという考え方が一般的です。 

減価償却費についてどのように扱うかという問題もあります。減価償却の対象となる財産については、税法上、これをその耐久年数に応じて配分計算した額が必要経費として控除されますが、他方でその取得のための借入金の元本返済分は必要経費とはされません。減価償却費については現実に支出されるものではないため、原則的には婚姻費用や養育費の算定上はこれを必要経費と認めないのが一般的です。もっとも、借入金が存在する場合、減価償却費か借入金の返済額のいずれかを経費と認めなければ公平を欠きます。そこで、減価償却費の額が適正な額であれば必要経費としてこれを控除したものを総収入と認定し、その代わり、資産取得のために負担した債務の返済は特別経費とはせず、減価償却費が相当でない場合は、これを取得金額に加算し、その代わりに現実の負債返済額を特別経費として控除するという考え方があります。 

  1.  その他の養育費算定に関する問題 

 以上のほか、養育費(婚姻費用)の算定にあたっては、以下のような問題があります。特に退職者について養育費をどのように扱うかという問題は、晩婚や熟年離婚も増えている現在、悩まれている方も多いのではないでしょうか。 

養育費の適正額について詳しく知りたい方は、ぜひ離婚問題に詳しい弁護士への相談をお勧めします。 

養育費(婚姻費用)算定にあたって問題となるケース 

・事業所得と給与所得がある場合の算定 

・年金所得の場合の算定 

・養育費支払義務を負う者が働けるのに働いていない場合に養育費を請求できるのか? 

・養育費支払い義務を負う者が退職して無収入の場合養育費支払義務はなくなるのか、勝手に退職した場合にはどのように考えるべきか?退職後、就業前である場合に将来の収入予測はどうするのか? 

・生活保護受給者に対し養育費を請求できるか? 

・児童手当等を収入として考慮する場合はあるのか? 

・養育費支払い義務を負う者が損害賠償債権を有する場合これを収入とすることができるか? 

・実家からの援助を収入とすることができるのか? 

3 養育費に関する新しい制度 

 今回、養育費の支払い確保のために大きな法律改正が行われました。以下ではその内容について解説します。 

  1.  先取特権の付与 

今回の改正では、養育費債権に先取特権を付与し(改正後民法306条3号)、債務名義がなくても取り決めがあれば担保権実行という形式で強制執行ができるようになりました。 

ここで、一般には馴染みのない、➀先取特権、➁債務名義、➂強制執行という言葉が出てきましたので、一つ一つ解説していきます。 

まず、➀先取特権とは、法律で定められたある種の権利を、債務者の財産から他の債権者に優先的して弁済を受けることができる権利をいいます。 

例えば、マンションの居住者が管理費を滞納している場合、この管理費債権には先取特権があるため、他の債権者よりも優先してマンションの管理組合が返済を受けることができます。 

次に、➁債務名義とは、裁判所に強制執行を申し立てる資格を示す文書をいいます。裁判の確定判決、執行公正証書、和解調書、調停調書などが債務名義に該当します。このような文書がない場合には、次に説明する強制執行を行うことができません。 

次に、➂強制執行とは、債務者が債務を履行しない(支払を行わないなど)場合に、強制的に相手方の財産を取り上げるなどして債務の内容を実現させる最終的な解決方法です。 

例えば、お金を借りた人(債務者)が期限までにお金を返さない場合、公正証書で消費貸借契約書を作成していたり、判決で貸金債権について認められたような場合には、お金を貸した人(債権者)は、債務者の預金や給与を差し押さえて、強制的に支払を受けること(債権を回収すること)ができます。 

今回の養育費制度の改正によって、養育費請求権を有する債権者(離婚後子を養育する母親など)は、調停調書や判決書などの債務名義がなくても、「その存在を証する文書」(民事執行法181条1項4号)を提出することで、債務者の財産の差押えや、財産開示手続や第三者からの情報取得手続の申立てが可能となりました。つまり、これまでは、養育費が支払われない場合、裁判所に調停申立や訴訟を提起する必要がありましたが、今後このような手続が不要となる場合があるということになります。調停の申立や訴訟の提起は、一人親にとって、時間的にも費用的にも多大な負担となりますので、この改正はとても大きな意味を持ちます。 

先取特権が付与される債権の範囲には注意が必要です。その範囲は養育費の範囲に限られることになります。夫婦間の協力及び扶助の義務や婚姻から生じる費用の分担の義務から生じる費用については対象外となるため、婚姻費用についてはその一部(養育費部分)が先取特権の対象ということになります。 

先取特権を称する文書とは、公文書や、弁護士、司法書士等が作成した文書である必要はなく、当事者間(離婚する父母)の養育費に関する合意が示された文書(離婚協議書など)であればよいとされました。もっとも、離婚協議書の内容で養育費の額が明確に特定されていないといった場合もあり、このような場合に、先取特権を称する文書と認められないというおそれがあります。そこで離婚協議書の作成にあたっては、弁護士へ相談した方がよい場合もあります。 

養育費が支払われない場合には将来の養育費についても一括して債権差押の申立ができます。そして、養育費支払い義務者の給与を差し押さえる場合、その2分の1まで差し押さえることができます。 

つまり、養育費の支払いが滞った場合には、養育費支払い義務者の給与を一度差し押さえれば、その後は養育費支払い義務者が退職するまで、養育費分が給与から天引きされて会社から直接養育費が支払われるということになります。 

  1.  法定養育費の創設 

父母が離婚の際に養育費の取り決めをした場合は、先取特権によって従来よりも支払の確保ができるようになりますが、養育費を定めることは協議離婚の条件ではないので、養育費を決めないまま協議離婚をしてしまう場合があります。また、DVや虐待があり、離婚時に養育費の話合いができないまま離婚しなければならない場合もあります。 

そこで、今回の改正で、父母の協議による定めがない場合の補充的なものとして、法定養育費制度が設けられました(改正後民法766条の3)。 

請求権者は、父母の一方であって離婚の時から引き続きその子の監護を主として行う者です。監護者の定めがある場合には、その親が監護者となりますが、仮に監護者の定めをしなくても、一般的には子はどちらかの親と同居していると考えられ、その場合同居する親が主たる監護者となります。 

監護者も定めがなく監護の分掌の合意があるような場合、その内容によってはどちらが監護を主として行うものであるかをめぐって紛争となる可能性があります。 

法定養育費支払の始期は離婚の日、終期は子が成人するか父母が協議により子の監護の費用の分担について定めた日、あるいは家庭裁判所の審判が確定した日とされました(改正後民法766条の3第1項)。 

 通常養育費を請求する場合、その始期は、子を監護する親が他方の親に調停申立等による請求を行った時とされています。しかし、改正後は、離婚時から法定養育費発生することになります。これにより養育費が支払われない期間がなくなるということになります。 

法定養育費の額については、「父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算出した額」とされましたが、その具体的な金額については未だ明らかにはなっていません。 

  

 法定養育費制度の創設に伴い、養育費支払義務者(債務者)の保護についても規定が設けられました。 

 法定養育費は、父母が養育費の定めをせず協議離婚した場合に発生し、債務者となる別居親の資力・収入を問題としません。そこで、本来別居親が負担すべき額よりも法定養育費の額が高額となる場合があり得ます。 

 そこで、債務者は、支払能力を欠くためにその支払をすることができないとき又はその支払をすることによってその生活が著しく窮迫することを証明したときは、その全部または一部の支払を拒むことができます(改正後民法766条の3第1項ただし書)。 

  1.  情報開示手続 

養育費に関する取り決めをするにも、養育費の額は当事者双方の収入を基礎に算出するので、義務者の収入が明らかでなければ適正な養育費の額を算出できません。裁判所から市区町村に対して義務者の所得の調査嘱託をすることもありますが、守秘義務を根拠に回答を拒まれることもありますし、そもそも離婚調停の段階では調査嘱託を裁判所を行わない場合が多いという実情があります。 

そこで、養育費請求の申立て(人事訴訟法32条1項)がされている場合、必要があると認められるときは、家庭裁判所は当事者に対し、その収入及び試算の状況に関する情報を開示することを命ずることができる旨の制度が新設されました(改正後人事訴訟法34条の3、改正後家事事件手続法152条の2第1項)。 

 そしてその情報の開示を命じられた当事者が、正当な理由なくその情報を開示せず、又は虚偽の情報を開示したときは、家庭裁判所は、決定で、10万円以下の科料に処するものとされました(改正後人事訴訟法34条の3第3項、改正後家事事件手続法152条の2第3項)。 

 この制度は子の監護に関する処分の調停事件や離婚についての調停事件(いわゆる離婚調停)でも適用がされます(改正後家事事件手続法258条3項)。 

  1.  執行手続のワンストップ化(財産開示手続の申立の特則) 

 ⑶の手続でも情報開示がされなかったり、離婚後時間が経過して義務者の収入が分からなくなったような場合には、財産開示手続、第三者からの情報開示手続を利用することを検討します。 

財産開示手続とは、財産開示手続きは、債務者(開示義務者)が財産開示期日に裁判所に出頭し、債務者の財産状況を陳述する手続きです。 

裁判を行い、判決等を取得しても、債務者の方から進んで支払いが行われなければ、強制執行を行って、相手方の財産を差押えなければ、債権を回収することはできません。​​相手方の財産を差し押さえるためには、相手方のどの財産を差押えるかを特定しなければなりません。しかし、判決等を取得したからといって、裁判所が債務者の財産を自動的に調べてくれるということは一切ありませんし、債務者との関係が緊密な関係でなければ、相手方がどのような財産を持っているかは通常分かりません。 

​​ そこで、財産開示手続きによって、相手方の財産について陳述を行わせ、差押えに必要な情報を取得します。 

第三者からの情報開示手続とは、債務者の財産に関する情報を債務者以外の第三者から提供してもらう手続です。たとえば、養育費が未払いとなっており、債務者(養育費支払い義務者)の給与を差し押さえたいけれど、現在の債務者の勤務先がわからないといった場合、給料の支給者に関する情報を、第三者である市区町村、日本年金機構等から提供してもらうことができます。 

これまでの制度では、第三者情報開示手続の利用にはいくつかの条件をクリアする必要があり、専門的知識がなければその利用を行うことは困難でした。 

そこで、今回の改正では、債務名義がなくとも先取特権(養育費債権に限る)によっても情報取得手続ができるものとし(改正後民事執行法206条2項)、さらに、1回の申立てにより、複数の執行手続を可能としました。 

すなわち、扶養の義務に関する債務名義をもつ債権者や先取特権を有する債権者が、財産開示手続や、債務者の給与債権にかかる第三者からの情報取得手続を申し立てた場合、その手続によって判明した財産の差押え(給与債権に限る)を、新たな申立なしに連続的に行えるものとしました。 

4 おわりに 

今回の養育費の支払い確保のための大きな改正は、子を育てる親にとって有益なものとなることは間違いありません。 

もっとも、法定養育費制度の創設や、執行手続の簡素化などが実現するとはいえ、たとえば、一般の方が強制執行手続を行うのはハードルが高く、特に財産開示手続や第三者からの情報取得手続の申立ては、認められる条件や、申立の際にそろえるべき資料が多く、どうしても弁護士への相談や依頼が必要となる場合があります。しかし、弁護士費用は子を一人で育てる親にとって大きな負担となります。法テラスの民事法律扶助制度などもありますが、すべての方が利用できるとは限らず、また、制度を利用するための申し込みも煩雑です。 

 今後、法定養育費をさらにすすめて立替制度が導入される可能性など、養育費をめぐる制度はこれからも大きく改正されていく可能性があります。常に最新の情報に注意し、疑問があれば離婚問題に詳しい弁護士への相談をお勧めします。