独身時代からの預金と親からの相続分は財産分与の対象になる?
2023.10.14
冒頭文
離婚時の財産分与では、夫婦「2分の1ずつ」が基本です。一方が専業主婦(主夫)でも関係ありません。では、夫婦が個別に稼いだお金もそこに含まれるかについて、ココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、離婚時の財産分与のポイントについて解説します。
離婚時の財産分与ではそれぞれの個人的収入も折半?
相談者のKさん(男性・仮名)は、結婚20年目で、離婚を考えています。
家族はKさんが50歳、奥様が49歳(専業主婦)、長女21歳(社会人)、長男17歳、次女15歳です。
結婚後のお金の管理は、独身時代から使用しているKさんの通帳でKさんがしています。
独身時から通帳に幾ら貯まっていたかは不明です。
奥様はパートや近くの畑の手伝い等の臨時収入があり、それらは奥様の通帳に入れています。Kさんはその貯蓄額は把握していないそうです。
また、昨年Kさんの父が他界し、母親から少しだけ相続分のお金を貰いました。金額は、贈与税が掛からない程度だそうです。
以上の内容を踏まえ、Kさんは離婚時の財産分与がどうなるのか気になり、次の2点について相談しました。
(1)Kさんが独身時代に貯めていた金額は不明だが、その金額も含めて折半になるのか。また、妻の預金も同様に折半になるのか。
(2)親からの相続分も、半分ずつに分ける必要があるのか。
独身時代の預貯金,相続財産は,「原則」財産分与の対象ではない。
財産分与は,夫婦が協力して形成した財産を離婚時に公平に分ける制度です。夫婦が協力して形成した財産を共有財産といい,夫婦の協力ではなく形成した財産を特有財産といいます。
独身時代の預貯金は,夫婦が協力して蓄えたものではありませんので,特有財産です。原則として財産分与の対象とはなりません。
同様に,相続した金員も夫婦が協力して蓄えたものではありませんので,特有財産です。原則として財産分与の対象となりません。
他方で,Kさんが婚姻期間中の給与収入から蓄えた預貯金は,奥様が家事育児を担っていたからこそ働くことができたという財産になりますので財産分与の対象となります。そのため,財産分与の対象となる預貯金は,独身時代の預貯金と相続した金員を除いたものとなります。
奥様の預貯金も同様に,パート等の収入は,Kさんの協力の下で得ることができたと言えるものですから(特有財産がなければ),財産分与の対象となります。
Kさんの財産額が多い場合,財産分与の金額を計算するには,(Kさんの財産(独身時代の預貯金と相続分を控除したもの)+奥様の財産)/2-奥様の財産 で計算することになります。
しかし,「原則」とお書きしているようにいくつか例外的な取り扱いがあります。
証明できない場合やお金の色が薄まった場合,財産分与の対象となる可能性があります。
特有財産である場合,その財産は財産分与の対象とはなりません。
特有財産であること,即ち,預貯金の金額が独身時代に蓄えたものであることや相続した金員であることは,Kさんが証明する必要があります。
昨年お亡くなりになったお父様の遺産については,比較的証明が容易だと思われます。遺産分割協議書を締結していれば,遺産分割協議書に受領した金員が記載されていると思われますので,遺産分割協議書が特有財産であることの証明のための証拠となります。遺産分割教書を締結していない場合でも,お父様の預貯金からKさんの受領までのお金の流れがわかるお父様・お母様の通帳なども特有財産であることの証明のための証拠となります。
次に,独身時代に蓄えたものについては,不明であるとのことですので通帳を破棄等して証明が困難な状況になっているのだろうと思います。金融機関は,取引履歴の記録を7年間は保存する義務がありますが,金融機関によっては,7年以上保存しているところもありますので,一度,金融機関に問い合わせてみてもよいかと思います。婚姻の際の残高の記録を取得できれば特有財産であることを証明するための証拠となります。金融機関の記録が取れない場合も,当時の生活状況から推測したり,奥様の認識をそれとなく聴取して記録化したりするなどの対応が考えられます。
もっとも,独身時代の預貯金の残高などを証明できたとしても別の例外が問題となることがあります。
独身時代の預貯金の口座をそのまま婚姻期間中の家計管理に使ったような場合,支出が,独身時代の預貯金由来か,婚姻期間中の収入由来か区別することは困難です。このような場合,渾然一体となっているとして,特有財産であることを否定する裁判例があります。
もちろん,婚姻期間中の期間が極めて短い,独身時代の預貯金の額と比して婚姻期間中の収入が極めて少ないような場合には,区別することも可能かもしれません。しかし,Kさんの場合は,独身時代の預貯金が蓄えられた口座は,20年間という婚姻期間を通じて婚姻関係の家計に利用されていたので,独身時代の預貯金としてのお金の色はだいぶ薄まっていると思われます。裁判例でいうところの渾然一体となっているといえます。
そのため,このことを奥様が争った場合には,独身時代の預貯金は特有財産と判断されない可能性が予想されます。